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セクション1 手指衛生の概要(後半)

連載その2 セクション1後半

手指衛生と抗生物質耐性菌感染症

 この部分は、近年世界的に大問題となっている抗生物質耐性菌に関連させて手指衛生の重要性を訴えています。耐性菌は、その菌種も遺伝子もますます多様になるばかりです。抗菌薬の適正使用(Antibiotic Stewardship)プログラムが各国で実践されている中で、同時に手指衛生による拡散防止を推進しなくてはならないと述べられています。

 このガイドでは、「(手指衛生を)実践する責任がある」といった表現が随所に出てきます。原文では例えばcommitやcommitmentという言葉が良く使われていましたが、この章の「医療に携わる人はいずれも、MDROの伝播を防止するために手指衛生を実施することに責任がある」と訳した文章では、hold ~ accountableという表現が使われていました。

エビデンスに裏づけられた手指衛生

 7ページの下と9ページの囲み部分は、手指衛生の効果については、数多くの科学的に質の高い論文によって裏付けられています、ということを説明しています。「手指衛生して何の役に立つの?」という質問がきたら、十分な裏付けがあることを実際の論文を参照して説明する必要があるかも知れません。

手指衛生の原理、図1.2 感染連鎖と感染微生物の伝播要素

 この部分は、WHOのガイドラインで詳細に説明されている部分なので、あえて簡単に記載されていると思われます。WHOガイドラインでは7章と8章でイラストも入れて12ページあまりもこの内容にページを割いています。 5モーメンツを理解する基本になる重要な部分ですが、本ウェブサイトでは別の項目でWHOガイドライン教育用ツールを日本語訳して掲載していますのでご参照ください。

 APICのガイドでは、8ページの図1.2で感染連鎖を分かりやすく図示してあります。細菌が人に付着するだけでは感染症は発症しません。土の中には大量の微生物が存在していますが、その土にまみれて遊んだとしても、普通健常な人は感染症にかかることはほとんどありません(傷がある場合は要注意です)。感受性の高い宿主(人)、微生物の性質(病原性)と数、進入経路の存在(侵襲的処置など)が存在したり、重なり合うことで起こります。したがってこのつながった連鎖のどこかを遮断すると、感染症の発生を減らすことができるというわけです。

ところでこの図の中にある、レゼルボアという単語はあるいは耳慣れない方もいらっしゃるかもしれません。一般的には、自然宿主を指す言葉で、例えばインフルエンザウイルスにおける水禽類(カモなどの水鳥)など、病気にはほとんどならずに、常時その種のウイルスを持っている生物のことを言います。APICのガイドでは少し意味を拡大して用いており、病気に関連せずに病原菌がコロニー化している場所全てを指して使っています。

エビデンスの質と階層

 エビデンスの階層について1ページを割いているのは、独特の視点だと思いますが、関連する論文が数多くある中で、どれが真実に近い事実を表しているのか、どこにバイアスがあるのか、読者自身が評価・判断する必要があると強調したいのだと思われます。

資源が限られた中での手指衛生

 基本的に米国向けに作られたはずの本ガイドに、この項目がわざわざ設けてられています。ここにあるのは、解決策ではなく問題提起です。

手指衛生の今後:遵守の改善

 このページに書かれているのは、これからの手指衛生遵守改善プログラムに何が必要かについてです。その中の一部は、このガイドの中のセクション3と4で議論される予定ですので、その部分で詳しく解説します。

 ガイドの中で触れられていないふたつの項目、「実施背景の影響」と「患者の手指衛生」については、現在までのところほとんど実施されていないか、研究事例が少ない項目であるものの、手指衛生プログラムの中の重要項目として考えるべきだ、との考えが述べられています。

文献

  1. Antiseptics, handwashing, and handwashing facilities. Bryan P. Simmons. June 1983, Volume 11, Issue 3, Pages 97–103.
  2. Guideline for Handwashing and Hospital Environmental Control, 1985
    https://wonder.cdc.gov/wonder/prevguid/p0000412/p0000412.asp
  3. Guideline for Hand Hygiene in Health-Care Settings
    https://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/rr5116a1.htm
  4. Klevens RM, et al. Estimating healthcare-associated infections in U.S. hospitals, 2002. Public Health Rep 2007;122:160-166.
    http://www.cdc.gov/hai/surveillance/

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