2016年3月のトピックス - 尿路感染(Urinary Tract Infection, UTI)
カテゴリー:医療関連感染(HAI)
2016/03/31
SMART(Study for Monitoring Antimicrobial Resistance Trends)は、2002年から行われているアジア-太平洋地域における多剤耐性グラム陰性菌(GNB)サーベイランスで、2009年から尿路関連GNBも対象としています。今回文献(1)で、2010-2013のUTIデータのまとめが報告されました。これはアジア-太平洋地域13カ国、合計60施設が参加した多施設共同研究で、13カ国の内訳は以下のとおりです。オーストラリア(5施設)、中国(17)、香港(2)、インド(6)、日本(3)、カザフスタン(2)、マレーシア(2)、ニュージーランド(4)、シンガポール(2)、韓国(2)、台湾(8)、タイ(2)、フィリピン(2)、そしてベトナム(4)。
調査期間中に集められたグラム陰性菌は2,640株で、E. colliがその60.5%を占めて最多、次にK. pneumoniae、P. aeruginosaが続きました。UIT分離株の提出が多かった国はトップから順に、中国、台湾、オーストラリア、ニュージーランド、そしてシンガポールでした。
今回のサーベイランスで特徴的なのは、ESBLの有無も一緒に調べているところ、それぞれ医療関連感染と市中感染と区別して、各薬剤の感受性(耐性)率を表しているところです。
詳細は論文をご参照いただきたいのですが、注目すべき結果のひとつは、フルオロキノロン系の薬剤に対する耐性菌率が多かったことで、アジア-太平洋地域ではUTIの治療としてフルオロキノロンは推奨されないとありました。ESBL産生E. coliにはAMKとTZPがカルバペネムの代わりとして考慮できるかもしれない、ということです。
アジアは薬剤耐性菌、特にE.coli とK. pneumoniae、のエピセンターと言われているそうです。現日本政府の方針に見られるように、今後さらにアジアから日本を訪れる人が増えていくことが予想されますので、どの国でどのような菌が流行しているかという情報には、日本にいながらも注意していた方がいいかと思います。
では、施設で尿路感染症を予防するには、どのような対策が効果的なのでしょうか?
これについては、文献(2)でレビューされていました。
過去20年くらい、UTIはICUにおいてのみ注目されていましたが、実際大多数はICU外で起きています。2013年のZimlichmanらによるメタアナリシスによると、米国でCAUTIにかかる費用は、1症例あたり最低896ドルと算定されました。
このレビューで推奨された対策は以下のとおりです。
- 挿入時:
● 医学的な必要性とデバイスの適切性について検討する
● 手指衛生
● 尿道口を消毒する前に塊状の物体を取り除く
● 無菌的な挿入テクニックと無菌器材を用いる
● 引っ張られたり動いたりすることを防ぐ固定器材を使用する保持中:
● カテーテルやバッグを触る前後には手指衛生する
● カテーテルを清潔に保つよう、常に尿道口や失禁のケアをする
● 無菌・閉鎖系を維持する
● チューブが輪になったり曲がったりする状態を最低限に抑え、スムーズな流路を維持する
● 移動のときも含めてバッグは膀胱よりも下に置く
● ドレーンチューブからではなく、ポートから尿を採取する
● ドレーンバッグを頻繁に空にすること、そして患者固有の採取容器に回収する
● 一日一度は様子を見る
● カテーテルや収集システムが壊れたり漏れたりした場合はデバイスを交換する抜去時
● 医療的に必要なくなったらすぐに取り去る
● 認められたデバイス抜去プロトコールに従う(ICU、病棟、麻酔後回復室)
● トイレの利用をサポートし、尿路デバイスを使わずに済む方法を考える
● 膀胱スキャナーを使って尿路の滞留がないか調べる