2016年11月のトピックス – 手指衛生に関連したAJIC論文から –
カテゴリー:手指衛生
2016/11/30
医療施設の皆さんに対して手指衛生遵守の重要性を述べる場合、本当に5モーメンツが必要なほど患者周辺に病原菌がいるのか、それが医療従事者(HCW)の手にどの程度移動するのか、それぞれのモーメントを遵守することで本当に患者さんの感染が防げるのか、はっきりした証拠が少ないことに困る場合はないでしょうか? 患者さんのケアをしている最中に、実際に菌数を測定することなど簡単に出来ることではないので、直接的かつ科学的なデータを得るのは困難です。そのためWHOのガイドラインは、限られた科学的証拠をもとに、多くは演繹的にその理論が組み立てられており、微生物に親しくない人たちを説得するのに弱さがあるように思います。
今回AJIC 2016年11月号に、患者さんを治療中の医療従事者の手掌の菌をサンプリングし、代表的な病原菌の数を測定した研究報告がありました。サンプル数が少ないところが残念ですが、このような研究はとても重要だと考えて、今回のトピックスに取り上げました。同じ号に、カーテンを触ることで手に付いた菌数を測定した事例も掲載されていましたので、こちらも合わせてご紹介します。
- 文献1 「外来処置での重要な手指衛生モーメントにおける、医療従事者の手のコンタミネーション」
<概要>
米国では外傷専門の救急外来など、傷の治療を専門に行う外来医療施設が多種存在する。外傷の処置では、必ず清潔操作と、患者の体液・血液への暴露が伴う場面がある。清潔操作前と体液暴露後はそれぞれ5モーメンツの中の2と3のモーメントであり、手指衛生が非常に重要な場面であるが、いまだにその遵守が十分でない現状が多く見られる。
米国オハイオ州における、外傷を処置する4つの外来病院・医院で、17人のHCWの行った46回の処置(ケア)を対象として、実際に患者の創傷処置中のモーメント2および3で、HCWの手に付いた細菌数を測定した。処置の最中での手指衛生については一切介入せず、それぞれのHCWが普段行っている通りのやり方で処置をしてもらった。
外来で創傷ケアをしている間に、モーメント2(清潔操作の直前)あるいはモーメント3(体液暴露直後)で、病原菌(MRSA、VRE、アシネトバクター、Clostridium difficileのいずれか)がHCWの手に付着していたのは、全体の3割近い28%だった。
なお本研究では手袋の装着に関しても観察・分析しています。著作権上ここでこれ以上詳細をご紹介することは出来ませんが、大変興味深い情報ですので是非オリジナルを読んでいただければと思います。オープンアクセスになっていますので会員以外でもお読み頂けます(原文へのアクセスには文末の文献名をクリックしてください)。
- 文献2 「患者プライバシーカーテンを触った後、医療従事者の手に付着した細菌」
<概要>
カナダの大学病院救急部門(Emergency Department)における、前向き観察研究。7日間を空けて、2日観察を実施した。参加したのは看護師、医師、その他のスタッフ合計30名。ベースライン、手指消毒後そしてカーテンの開閉後の3パターン連続して手指菌数をカウントするとともに菌種を同定した。参加者の半数は、カーテンを開閉することでベースラインにはなかった菌を手に付着させていた。
非常に規模の小さな観察ではあるものの、ベッド脇のカーテンに相当数の菌が付着しそれが実際に医療従事者の手に移ったことが示され、カーテンを触った後の手指衛生の重要性を改めて明らかとした報告だと思われます。
文献
(1)Health care worker hand contamination at critical moments in outpatient care settings.
American Journal of Infection Control November 1, 2016, Volume 44, Issue 11, Pages 1198–1202.
(2)Acquisition of bacteria on health care workers’ hands after contact with patient privacy curtains.
American Journal of Infection Control November 1, 2016 Volume 44, Issue 11, Pages 1385–1386.
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