2016年9月のトピックス - ノロウイルス・インフルエンザ
カテゴリー:インフルエンザ・ノロウイルス
2016/09/30
(1) ヒトノロウイルスの新しい培養系
9月23日配信のScience誌に、ヒトノロウイルスの細胞培養系を確立したという論文が掲載されました(1)。ご存知の通りヒトノロウイルスはこれまで実験室内で培養・増殖させることができませんでした。そのため、消毒薬効果の試験や食品の加熱実験などを実施するために、「系統的にヒトノロウイルスに近く、かつ実験しやすい」ウイルス株を「代替」として使うことが通例行われてきました。この代替ウイルスとしてよく使われるのが、マウスノロウイルス(MNV)とネコカリシウイルス(FCV)ですが、当然ヒトノロウイルスとは異なる性状を持ち合わせていますので、これらを用いた実験にどのような意味を持たせるのか、ずっと議論があります。
ヒトノロウイルスの細胞培養系は、数年前に別のグループによる論文が発表されたことがあります。免疫細胞であるB細胞を用いることで初めて実験室での増殖を可能としたといったものでしたが、その後他のグループによる再試確認の報告が出てきませんでした。
今回の新しい培養系では、CPE(ウイルスが細胞に感染したことで観察される細胞変性)やタンパク質の発現も確認され、さらに培養で増殖したウイルスを細胞に接種することで再感染することも確認されております。また遺伝型によって大きく性状が異なることや、HBGA(注1)に関連するsecretor-positive(注2)と感染性との相関が見られたことなど、これまでの知見と一致しており、かなり期待が持てる結果といえます。幹細胞由来の腸管細胞系を用いているというところで、どこのラボでもすぐに出来るのか、といった懸念がありますが、今後の研究が進めばより単純化した系も現れてくるのではないかと期待されます。
(1) Replication of human noroviruses in stem cell–derived human enteroids
Khalil Ettayebi, et al. Science 23 Sep 2016: Vol. 353, Issue 6306, pp. 1387-1393
(注1)血液型抗原(ウイルス学会HPから解説がダウンロードできます)
ノロウイルスと血液型抗原 – 日本ウイルス学会
jsv.umin.jp/journal/v57-2pdf/virus57-2_181-190.pdf
(注2)分泌型陽性(同上)
- インフルエンザ関連情報 「米国とヨーロッパの経鼻生ワクチン」
米国で一般的に使用されているインフルエンザワクチンのうち、小児用4価の経鼻生ワクチン(LAIV4)は、来シーズン(2016-2017)は使用すべきでない(recommendation that LAIV4 should not be used)と、米国ACIP(Advisory Committee on Immunization Practices)が発表しました(3)。その理由は、このワクチンのA(H1N1)pdm09に対する有効性が過去2シーズン連続して非常に弱かったことが明らかとなったからです。
一方新たにLAIVを導入したヨーロッパの2カ国、フィンランド(4)とイギリス(5)の昨シーズンの有効性データが、9月のユーロサーベイランスに公表されました。これらの結果は米国と異なっており、フィンランドでは2歳児に対して40%以上、イギリスでは全年代(2歳~65歳以上)対象のA型に対する有効性が30%でした。WHOは安価で有効性の高いとされるLAIVを途上国に導入するプログラムを進めており、同じユーロサーベイランスの誌上、米国との有効性の違いが出た原因についてWHOで詳しく検討していると述べています(6)。ただフィンランドと英国の結果も決して高いとは言えません。同時に比較した不活化ワクチンは80%程度の有効性を示しており、今後LAIVの改良についても議論される予定です。
生ワクチンは確かに安価で、かつ生産までの時間が不活化よりも短いために、途上国のパンデミック対応に役立つと期待されています。その一方現行のタイプはアジュバントが必要な上に、有効性が低下する可能性があることが明らかとなりました。日本では、アジュバント不要の全粒子型の生ワクチン開発も進められており、さらに有効性の高い生ワクチンが期待されます。
(3) Prevention and Control of Seasonal Influenza with Vaccines
MMDR Recommendations and Reports / August 26, 2016 / 65(5);1–54
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