MERSが世界的流行を起こす可能性は?
カテゴリー:その他
2015/03/24
2月19日の本欄にも投稿しましたが、中東呼吸器症候群(MERS)の流行が再発した後、いまも症例報告が続いています。昨年12月にふたたび8症例が報告されたのを機に、今年1月は33、2月68例と増加し、3月サウジアラビアからWHOに報告されたところによると、3月3日から10日の間に15人の新規患者が発生し、そのうち5名が死亡したということです(1)。
しかし、世界的アウトブレークに発展したSARSのようなことにはならないだろう、というのが最近の専門家の共通した理解となっています(SARS とMERSの原因ウイルスは同じコロナウイルスに属しており、SARS流行の再現となることがこれまで最も恐れられてきました)。
UAEやドイツなどの共同研究グループの報告によると(2)、調べたUAEのラクダ牧場で飼育されている2歳以上のラクダの96%以上が、MERSコロナウイルスに感染した経験を持っており(抗体陽性)、発症もしていないことが明らかとなりました。一方実際にウイルスが分離される頻度は、2-4歳の個体よりも1歳未満の幼若個体の方がはるかに高いことなどから、中東のラクダがこのウイルスの主要なレゼルボアであり、子供の間に感染しその後抗体獲得して過ごすと考えられます。
一方で1,000人以上の患者が、ラクダからではなく病院内で患者から感染していることや、ラクダに濃厚接触する職業の人の抗体陽性率が高いことから、感染率はこれまで考えられていたよりもはるかに高く、その一方有病率・致死率はかなり低いことが分かってきました。
問題は今後ウイルスが変異によって人により感染しやすくなり、ヒト―ヒト感染による流行を起こす可能性が高いかどうかですが、これについても研究者は否定的です(3)。コロナウイルスは他のRNAウイルスと違い、遺伝子の読み取りミスを正すタンパク質を持っていることから変異率が低く、今のような散発的なヒト感染が続いてもヒトへの適応変異を獲得する確率は低い、というのがその理由です。
公衆衛生学的にMERSコロナウイルスはニッチな位置を占めていますが、「2年前エボラウイルスもその位置にいた」、とNIAIDのVincent Munsterは述べており、大きく心配する必要はないものの、継続した監視の重要性が指摘されています。
(1) WHO Global Alert Response
Middle East respiratory syndrome coronavirus (MERS-CoV) – Saudi Arabia
Disease outbreak news, 20 March 2015
(2)Emerging Infectious Diseases
International Journal of Infectious Diseases Vol. 33, April 2015
Volume 21, Number 6—June 2015
Dispatch
Acute Middle East Respiratory Syndrome Coronavirus Infection in Livestock Dromedaries, Dubai, 2014
Ulrich Wernery
(3) Science 20 March 2015:
Vol. 347 no. 6228 pp. 1296-1297
MERS surges again, but pandemic jitters ease
Kai Kupferschmidt